- ヤニで壁紙がダメになっても経年劣化適用の場合、負担しなくて良いんでしょ?
- ヤニで壁紙をだめにした場合、請求されないって本当?
- 友達は10年住んでたけど、ヤニ汚れで請求されてたよ?
今回は以上のような、疑問を解消していこうと思います。
原状回復とは?知らないと損する基本的な費用負担の考え
賃貸の退去時に、誤ってモノを床に落としてしまって床に傷がついてしまった場合はその修繕費用を借主が負担しなければなりません。
その修繕費用の事を『原状回復費用』といいます。
この『原状回復費用』について、意外とちゃんとは理解出来ていない方がほとんどです!まずは、この言葉の基本的な意味を理解しましょう。
東京都の原状回復ガイドラインには、以下のような説明がされています。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を一定の範囲まで修復する
つまり、普通に生活して汚れてしまう分には借主が費用負担することはないということです。
しかし、以下の場合は借主が負担する必要があります、と書いています。
「故意・過失」・・・何か誤ってモノを落として床を傷つけた等
「善管注意義務違反」・・・1年中換気しなかったため、畳などにカビが生えた等
「その他通常の使用を超えるような使用」・・・ピアノを置いていて床がへこんだ等
まぁ、結構当たり前の話だと思います。
普通に生活して汚れしてしまう範囲とは?
ココらへんは結構ガイドラインだけでは曖昧なので、裁判になった際にどのラインまでが、いわゆる”普通の生活での汚れ”になるのかで判断していきたいと思います。
原状回復費用を巡った裁判では、
建物賃貸借において特約が無い場合、賃貸期間中の経年劣化、日焼け等による減価分や通常使用による賃貸物の減価は賃貸借本来の対価というべきであって賃借人の負担とする事はできない。
つまり、経年劣化や日焼けとかは普通に住んでいれば当たり前のように起こりうる事象であって、借主の責任ではないから、そこらへんは貸し主負担ですよ、ということです。
平成12年と平成17年に上記のように通常損耗を賃借人負担とすることはできない判決が出ています。
喫煙は通常損耗?故意過失?
喫煙によるクロスの汚れは、通常損耗と故意過失のどちらに含まれるのでしょうか?
喫煙について、ガイドラインはこのように定義しています。
「喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸物件での喫煙等が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと考えられる。」
つまり、喫煙によるクロスの汚れやニオイは通常損耗とは考えず、通常であれば「借主」の費用負担とする場合が多いといえます。
ちなみに、つい最近までは喫煙は通常消耗と考えられていました。
平成23年の改定以降、喫煙に対する借主の責任は重くなり、喫煙者の減少、喫煙に関する社会情勢等が追い風となり、通常の使用であることを前提とするというのはなくなりました。
『経年劣化』の意味を正確に捉えることが、問題解決への一歩!
経年劣化とは・・・
時間とともに品質が低下すること。雨風・湿気・温度変化・日照などによる品質の低下だけでなく、通常の方法で使い続けることによる摩滅、汚れ等の損耗も経年劣化である。
先程紹介した東京ガイドラインでは、賃貸借契約の解約時の原状回復では、この経年劣化による損耗の回復は原状回復範囲に含まれないとされています。
具体例をもとに説明していきます。
6年在住だと壁をどんなに汚していても費用負担はたったの1円!
入居時に新品の壁紙を張っていたとしても、6年後にはその壁紙の価値はたったの1円です。
1円のクロスをどんなに汚しても1円です。
ということは、3年間で価値は50%まで償却されるということになりますね。
それでは、6年間住むと喫煙してようが、壁をめちゃくちゃに引き裂こうがなにしてもいいのでしょうか?
いいえ、借主が費用負担をしなければならない場合も多く存在します。
次の大項目で解説していきます!!
冷蔵庫ヤケで壁にシミがあっても、修復する必要なし!
賃借人が通常の使い方をしていても汚れてしまうこともあります。例えば以下のようなものです、、、
テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
テレビ、冷蔵庫は通常一般的な生活をしていくうえで必需品であり、その使用による電気ヤケは通常の使用ととらえるのが妥当と考えられています。
コレを借主に払え!というのは流石に理不尽ですよね。
先述の通り、”通常の使用”は借主の原状回復範囲外でしたね!
【原状回復時にヤニによる費用負担①】全額借主負担の場合
ここまでの話を踏まえて、次は「原状回復時にヤニによる費用負担」について触れていきたいと思います。
ヤニによる原状回復は、場合によって”全額借主””全額貸し主””費用折半”の3パターン分かれます!なので、一概に誰がいくら!と言えないという事を覚えておいて下さい!
では、どんな場合に誰がどのくらい費用を負担するのかを場合別にてみていこうと思います。
まずは全額借主が負担する場合です!
契約書の特約部分に
『本物件はたばこ喫煙不可物件のため、喫煙者入居時には、全室壁、天井部分クロス、襖張替え及びルームクリーニングを必須とし、その費用を借主の負担とする。』
貸主は以上のような特約を定めることによって、クロスの張替費用、ルームクリーニング費用を借主に請求しても問題ないとなります。
なんだか理不尽のような気もしますが、これが許されるしっかりとした理由があります。
なぜがというと、民法では「契約自由の原則」があるからです。
基本的に、大家さんと入居者さんがお互い同意の上決めたルールで契約したのであれば”ガイドライン”より契約が優先されるということです。
ん、なら「退去時には無条件に壁床の張替え費用を借主が全額負担するものとする」という契約にすることができるのか?というと出来ますが、この特約は『無効』になります。
ちゃんと法律で決められていて、”理不尽すぎるルールを付けても無効にするからね!”という規則があります。
いずれにしても、契約前にしっかりと契約書を見ることが大事です。
【原状回復時にヤニによる費用負担②】全額貸し主負担の場合
次に全額貸し主負担の場合を紹介していきます!
6年で価値なし理論を全面的に認められた場合が貸し主(大家さん)負担になります。
先述した通り、継続して入居していればクロス・設備の価値はどんどん下がっていき、喫煙など「故意・過失」にてクロスの修繕などが必要な場合でも「現存する価値」の分に対してのみの請求となります。
つまり、「故意・過失があったとしても」入居年月が長ければ、入居者にはほとんど請求することができません。
契約書に特にタバコやヤニについての特約もない場合は請求は認められない場合が多いですので、貸し主負担になることになります。
【原状回復時にヤニによる費用負担③】貸し主/借主折半の場合
6年で価値なし理論を全面的に認められた場合でも請求される場面
先程、「故意・過失があったとしても」入居年月が長ければ、入居者にはほとんど請求することができないと話しました。
しかしコレは、あくまで壁クロス自体の費用のみです!!
6年以上居住することでクロス自体の価値は1円となってしまいますが、たばこの喫煙によってクロスの張替工事が必要な状態にしてしまったということで、クロスの「交換にかかる作業代(作業員の人件費や作業料など)」は請求することが可能なケースもあります。
原状回復ガイドラインでは以下のような記述があります。
具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。
まぁ、以上はあくまでガイドラインです。
入居者がゴネればひっくり返るかもしれませんし、ココまで来ると裁判とかでないとはっきりさせることはできないでしょう。
但し、以上のような部分まで知っている管理会社や大家さんは正直少ないです笑
知っていても、裁判とか費用もかかるし面倒だから、「なら、もういいです」と言われる確率大です、、、
経年劣化を前提として費用を折半する場合
これは、ほとんどおまけ要素が大きいですが、「【原状回復時にヤニによる費用負担②】全額貸し主負担の場合」で6年経過しておらず、3年とかだと半額分は請求されることになります。
こうなると、半々で費用を折半という形になると思います。
普通の傷とかだと、原状回復ガイドライン上ではその部分のみの修繕費用だけ負担すれば良いことになっていますが、タバコやヤニはその吸った部屋全面張り替えるべし、と書いていますので全室匂いがある方は費用がかなり掛かるかもしれませんので、気をつけて下さい。